自分の子供を育てていると、自分の育児の仕方が本当に正しいのか迷うことがあります。昔の常識が今の非常識であるように、今の常識が、本当に子どもにとって正しいことなのかわからないからです。
本書の作者は、教育経済学者の中室牧子氏。教育経済学者とは、教育を経済学の理論や手法を用いて分析することを目的としている応用経済学の一分野です。
「ゲームは子供に悪影響なの?」「教育にはいつ投資をすべきなの?」「ご褒美で釣るっていけないことなの?」親であれば、誰もが一度は悩む問題です。
そんな悩みを持つ親の不安を、データをもとにした科学的根拠をもとに解消してくれるのが本書です。思い込みや、他人の経験談だけで語られてきた子育て論にエビデンスが決着をつけてくれます。
勉強しなさいはエネルギーの無駄遣い
「勉強するように言う」のは親としても簡単なのですが、この声かけの効果は低く、ときには逆効果になります。エネルギーの無駄遣いなので、やめた方がいいでしょう。
逆に、「勉強を見ている」または、「勉強する時間を決めて守らせている」という、親が自分の時間を何らかの形で犠牲にせざるを得ないような手間暇のかかるかかわりというのは、かなり効果が高いことも明らかになりました。
私自身もそうですが、子育て世代というのは何かと多忙で、どうしても子供に対して時間が取れないということがあります。子供が小さいということは、父親は働き盛りの年齢であることが多いので、夜遅くまで働いている家庭が多いのではないでしょうか。
すると、家事全般を母親が担当しなければならないので、子どもの勉強にかまってやれることができず、ついつい楽な「声掛け」だけで勉強をさせようとしてしまいます。
しかしながら、本書によると、子どもの成績は、親がどれだけ子供の勉強のために時間を費やすことができたかによって影響を与えると言っています。
また、関わるのも、男の子には父親が、女の子には母親が関わる方がいいと紹介しています。息子が勉強するようになるかしないかは私にかかっているということですね、肝に銘じておきます。
子どもはほめて育てるべきか
「あなたはやればできるのよ」などといって、むやみやたらに子どもをほめると、実力の伴わないナルシストを育てることになりかねません。とくに子供の成績がよくないときはなおさらです。
今の子育てでは「ほめて育てる」というのが常識になりつつあります。実際、うちの子にもできるだけ、ほめて伸ばそうと思い、何かにつけて褒めるようにしていました。
ただ、「ほめ育て」を行っている親で、いつ・どのように子どもをほめたら効果的なのかということ理解している親はいないと思います。
たいていの親は、とりあえず何でもほめればいいと思っています。しかしながらその結果、今の世の中に「実力の伴わないナルシスト」を大量生産されてしまっているのです。
実際、本書の中では、米国の心理学者たちが過去の研究結果をもとに、自尊心と学力の関係はあくまでも相関関係にすぎず、学力が高いから自尊心が高いという結果をもたらしていると紹介しています。
また、実際に成績の悪かった学生に自尊心を高めるようなメッセージを送っても成績を良くすることができなかったという事例も紹介しています。つまり、頑張らない子にプライドを高めるような働きかけをしても、ただの勘違い野郎にしかならないってことがデータで証明されているわけです。
では、ほめることが意味ないのかというと、そうではなく、重要なのはそのほめ方だと言っています。
子どもをほめるときには、「あなたはやればできるのよ」ではなく、「今日は1時間も勉強できたんだね」「今月は遅刻や欠席が一度もなかったね」と具体的に子どもが達成した内容を挙げることが重要です。そうすることによって、さらなる努力を引きだし、難しいことでも挑戦しようとする子どもに育つということがこの研究から得られた知見です。
本書では、「頭がいいのね」といった能力についてほめると、子どもたちは意欲を失い、成績が低下するという事例を紹介しています。なので、「かしこいね」とか「あたまがいいね」だけでなく、「できる子だから大丈夫」といった能力をほめるのではなく、「頑張ったね」といった、努力を称賛するほめ方をすると、その後も努力を続けようとする傾向が見られるようです。
ほめ方にも、適切な言葉と内容があるというのは、新しい発見でした。これ、子どもの教育だけでなく、部下や後輩を持つ上司にも役立ちそうなビジネスハックですね。
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幼児教育の重要性
よく、子どもの教育は、小さいころからやった方がいいという話を耳にします。最近では、幼児教育が盛んで、0歳から幼児教室に通わせる親もいるみたいです。
で、実際に幼児教育は効果があるのかって話なんですが、結論から言うと学力としての効果は薄いようです。具体的な例を挙げると、本書では、小学校入学前に高度な幼児教育を受けた子と、そうでなかった子の学力の差は、小学校入学とともに小さくなり、8歳前後で差がなくなってしまっているという例を紹介しています。
では、意味がないのかというと、一概にそうとも言えなく、学力テストなどで計測する「認知能力」ではなく、忍耐力や社会性などの「非認知能力」に差があると言っています。
気質や性格的な特徴である非認知能力は、本来目に見えないものですが、45ページで「自尊心」を計測したのと同じような心理学的な方法を使って、数値化することができます。そして、その数値を分析した結果、非認知能力は、認知能力の形成にも一役買っているだけでなく、将来の年収、学歴や就業形態などの労働市場における成果にも大きく影響することが明らかになってきたのです。
どんなに勉強ができても、自己管理ができず、やる気がなくてまじめさに欠ける人が社会で成功できるはずがありません。つまり、幼児教育は学力以外の能力に効果があり、その能力が社会に出た時に圧倒的に大切だということです。
まとめ
冒頭に挙げた「ゲームは子供に悪影響なの?」「教育にはいつ投資をすべきなの?」「ご褒美で釣るっていけないことなの?」といった疑問に対しては、本書の中でエビデンスをもとに説明されていますが、ここでは内容を控えておきます。気になる方は本書をご覧ください。
教育に関して間違った情報が飛び交うのは、日本人の誰もが教育を受けてきたから、何が良くて何が悪いのかという考えを皆持っているからだという意見もあるようです。
そして、教育に携わる立場にない人でも、親を経験したことがあれば、教育に関して思うところがあるのかもしれません。そういった様々な子育て論が飛び交い、子育て世代の親が迷い、悩み、他人の子育て成功事例を真似するということが起こっているのでしょう。
しかしながら、他人の成功事例が自分の子供に当てはまるとは限りません。人それぞれタイプが違い、個性が違うので他人の前例が通じるとは限らないのに、それでも真似をしようとするところが、多くの親の悩みの深さだと思います。
そんな悩み多き子育て世代の親たちにこそ、こういった科学的根拠に基づいた教育論が必要なんです。こういった研究をもっと増やして欲しいものですね。
それではまた、see you!
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