【書評】今さらだけど『もしドラ』こと『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』を読んでみた

もしドラ 書評
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今回、書評でご紹介する本は、2009年の12月に初版が発行され、その後爆発的な人気となり、電子版と合わせて270万部を突破した大ベストセラー本。『もしドラ』こと『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』です。

【ピクト動画で12分に要約】もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら

基本的に天邪鬼な性格をしているせいか、ベストセラー本というのをほとんど読んでおらず、最近になってようやく、そういったベストセラー本を読み返していたりします。

 

『もしドラ』あらすじ

まずはいつものようにAmazonの商品説明よりあらすじを引用させてもらいます。

敏腕マネージャーと野球部の仲間たちが甲子園を目指して奮闘する青春小説。高校野球の女子マネージャーのみなみちゃんは、マネージャーの仕事のために、ドラッカーの『マネジメント』を間違って買ってしまいます。はじめは難しくて後悔するのですが、しだいに野球部のマネジメントにも活かせることに気づきます。これまでのドラッカー読者だけでなく、高校生や大学生、そして若手ビジネスパーソンなど多くの人に読んでほしい一冊。

説明にもありますが、本書はあるきっかけから野球部の女子マネージャーとなるのですが、マネージャーの仕事を調べようと手にしたのがP.F.ドラッカーの『マネジメント』というまさかのオヤジギャグ www。

しかしながら、このエピソードは著者の岩崎夏海さんが、欧米におけるマネージャー(監督、経営者)の捉え方と日本のマネージャー(お世話役、下働き)の捉え方の違いに違和感を持ち、「じゃあ、日本の女子マネージャーがマネジメントを読んだらどうなるのか?」というアイディアから生まれたのだそうです。

その話を自身のブログに書いたところ、出版社の担当の目にとまり、とんとん拍子で自身初めての著書となったそうです。オヤジギャグのアイディアが初出版につながるのですから、人生何がきっかけになるかなんて分からないものですよね。

 

みなみちゃんがドラッカーから教わった15のこと

続いて、本書の中で、主人公の川島みなみが『マネジメント』のなかからドラッカーに教わったことを紹介していこうと思います。

マネージャーに必要なのは才能ではなく真摯さ

マネージャーとして必要なのは、人を管理する能力だったり、議長役や面接の能力と考えられがちですが、それだけでは十分ではありません。それらは後からいくらだって学ぶことができるからです。

愛想よくすることや、人を助けること、人づきあいを良くすることがマネージャーの資質と勘違いされやすいのですが、そのようなことで十分なはずがありません。

ドラッカーは、マネージャーに必要なのは、知的な能力や人の好き嫌いで評価するのではなく、何が正しいかだけを考えて、誰が正しいかを考えない、部下やチームに対する真摯さが必要だと言っています。

すべてのマネジメントは顧客から始まる

マネジメントの最初の仕事は「組織の定義付け」であると言っていますが、この組織を定義付けるにあたり、出発点は一つしかないと言っています。それが顧客です。顧客を満足させることが企業の使命であり目的です。

したがって、「顧客が誰か」という問いこそが最も重要な問いなのです。

しかし、この定義付けは簡単なものではありません。ドラッカーは「答えの分かりきった簡単なものではない」と言っています。野球部だから野球をやる組織なのではなく、野球部の顧客に何を与えられる組織なのかを考えなければなりません。

真のマーケティングは顧客から始まる

これまでのマーケティングは、販売に関係することばかりでした。「自分たちの商品はどうしたら売れるのか?」「どうやって認知してもらうか?」など。これではまだ販売の域を脱せず、自分たちの商品からスタートしているに過ぎません。

これに対して、真のマーケティングとは、顧客目線からスタートします。「われわれは何を売りたいか」ではなく、「顧客は何を買いたいか」を問う必要があります。

すなわち、「自分たちの製品やサービスにできることはこれである」と決めつけることではなく、「顧客が価値を求め、必要とし、求めているサービスがこれである」というところから始めなければなりません。

仕事には「働きがい」が必要である

マネジメントの目的は、生産的な仕事を通じて、働く人たちに成果をあげさせなければなりません。そして、成果をあげるには、仕事に働きがいを与える必要があります。

仕事に働きがいを与えるには、責任を持たせる必要があります。そのためには、①生産的な仕事、②フィードバック情報、③継続学習の3つが必要不可欠となります。

また、責任を持たせることが成功するのは、それぞれの専門分野において知識と経験が生かされた時です。マネージャーの仕事には、個々の知識と経験を把握し、いかにそれぞれの専門分野で責任を持たせることができるかということにかかっています。

専門家が頼りにすべき者がマネージャーである

専門家のアウトプットとは知識であり情報です。ところが、彼らはそれらの知識や情報を理解してもらってこそ初めて有効な存在となります。

そのため、マネージャーは、専門家の道具、ガイド、マーケティング・エージェントとなる必要があります。組織の目標を専門家の用語に訳したり、専門家のアウトプットを組織の言葉に翻訳してやることもマネージャーの仕事です。

そうすることによって、専門家の持っている知識や情報が、組織にとっての大きな武器となります。

成長には準備が必要

成長するチャンスというのはいつ訪れるのか予測できません。しかし、準備ができていなければ、そのチャンスは去ってしまい、成長する機会を失ってしまいます。

そのため、いついかなる時もその機会が訪れてもいいように、常に準備をしておかなければなりません。準備を万全にしておくのもマネージャーの仕事のひとつです。

人のマネジメントは人の強みを発揮させること

人は弱いです。悲しいほどに弱いです。弱いからこそ問題を起こし、手続きや雑事を必要とします。しかし、そのことはあまり問題ではありません。人を雇うのは、人の強みを生産に結びつけるためです。

マネージャーとしては、人の弱みにばかり目を向けるのではなく、人の強みに着目して、それをどう生産に結びつけるのかを考えるのがマネージャーの仕事です。

消費者運動はマーケティングにとっての恥

消費者運動は、製品やサービスの改良・改善を求めて消費者が企業に働きかける運動のことです。代表的なものに、不買運動やボイコットなどがあります。

これらは、マーケティングの基本である顧客目線からスタートしていないことが原因です。つまりは、真のマーケティングが実践されてこなかったことを意味し、消費者運動が起こるということはマーケティングの失敗であり、恥であるというわけです。

仕事を生産的にする4つのもの

仕事を生産的なものにするためには、4つのものが必要です。①分析②総合③管理④道具の4つです。

①の分析は、仕事に必要な作業と手順と道具を知らなければなりません。

②の総合は、作業を集め、プロセスとして編成しなければなりません。

③の管理は、仕事のプロセスのなかに、方向づけ、質と量、基準と例外についての管理手段を組み込まなければなりません。

④の道具は、仕事を生産的に必要な、ありとあらゆる道具のことです。それは、仕事に直接関わるものだけでなく、分析や管理に必要な道具も含まれます。

自己管理は強い動機づけをもたらす

自己目標管理の最大の利点は、自らの仕事ぶりをマネジメントできるようになることにあります。自分に与えられた仕事に対して、強い動機づけをもたらし、適当にこなすのではなく、最善を尽くすようになります。

自己管理が可能となった組織は、組織の管理を容易にしてくれます。また、強い動機づけによって、より強い責任感が植え付けられます。

企業の第二の機能はイノベーション

ドラッカーは、企業に対して次のように言っていました。「マーケティングだけでは企業としての成功はない。静的な経済には、企業は存在しない。企業が存在するのは、成長する経済のみである。あるいは、少なくとも、変化を当然とする経済においてのみである。そして、企業こそ、この成長と変化のための機関である。」

つまり、企業の存在価値は、イノベーションすなわち新しい満足を生み出すことにあると言っています。

ただし、イノベーションとは、新しい科学や技術そのもののことではなく、組織の外に影響を与える新しい価値であると定義しています。そのためには、既存のものは全て陳腐化すると仮定し、古いもの、死につつあるもの、陳腐化したものを計画的かつ体系的に捨てていかなければなりません。

社会の問題についての貢献

マネジメントには、自らの組織を社会に貢献させる三つの役割があります。①自らの組織に特有の使命を果たす。②仕事を通じて働く人を生かす。③自らが社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題について貢献する。

①は、顧客に価値を提供するという使命。②は、働く人に働きがいを与え、そのなかで人の強みを生かしていくこと。③は、組織が持つ強みを生かした社会の問題への貢献です。

とくに、③については、ボランティアなどの安易な社会貢献ではなく、組織の取り組みや強みを生かした新たなイノベーションとなるものが望ましいです。

成果とは百発百中のことではなく打率である

成果とは、百発百中のことではありません。百発百中なんて、ただの曲芸です。成果とは、もっと長期的なものを指します。すなわち、間違いや失敗をしないものを評価するのではなく、信用してはならないということです。

間違いや失敗をしないというのは、ただの見せかけか、無難なことやくだらないことにしか手をつけないものだということです。単に挑戦しない愚か者なだけです。

成果とは打率です。人は、優れているほど多くの間違いをおかし、失敗をします。優れている人ほど、新しいことを試みようとするからです。マネージャーは、新しいことを試みようとしている「意欲」や「士気」を否定せず、大切にしなければなりません。

市場における目指すべき規模は「最大」ではなく「最適」である

組織の規模というのは、大きければいいというものではありません。組織には、それ以下では存続できないという最小規模の限界があるように、それを超えると、いかにマネジメントしようとも繁栄を続けられなくなるという最大規模の限界があります。

組織の規模の問題点については、組織の中にあるわけではありません。ましてや、マネジメントの限界にあるわけでもありません。最大の問題点は、市場における組織の大きさにあります。市場での規模が最大になり、競争相手がいなくなると、市場は膠着状態に陥り、市場の成長が一気に止まる可能性があります。

つまり、市場において目指すべきは、「最大」ではなく「最適」であると言えます。

成果こそ、すべての活動の目的である

組織構造は、組織の中の人間や組織単位の関心を、努力ではなく成果に向けさせなければなりません。成果こそがすべての活動の目的だからです。

成果よりも努力の方が重要になってしまうと、職人的な技能、管理能力、専門的な能力自体が目的となってしまい、仕事のための仕事になってしまいます。

組織は、仕事のためではなく成果のために働き、贅肉ではなく力をつけ、過去ではなく未来のために働く能力と意欲を生み出さなければなりません。

 

感想

本書では、これらの教えを野球部の運営に活かして、弱小野球部で甲子園を目指すというストーリーなのですが、ドラッカーの「マネジメント」を非営利組織で活用するという事例として非常にわかりやすい内容となっていました。

特に、「組織の定義付け」や「顧客は誰か」という点においては、安易に考えがちであり、それが概ね間違っているということがよくあります。しかし、本書ではこのポイントで一番悩んでおり、野球部の組織としての定義付けや、野球部にとっての顧客は誰か?という点を丁寧に解説していました。この考え方は、おそらくどの組織にも応用が効くのではないでしょうか。

また、ドラッカーのマネジメントの基本はマーケティングとイノベーションということは知っていたのですが、「成果とは百発百中ではなく打率である」という点については目からウロコ。

確かに、イノベーションは新しい価値の創造なので、全く新しいことを失敗なく行うことは不可能なのですが、『マネージャーは、新しいことを試みようとしている「意欲」や「士気」を否定せず、大切にしなければならない。』という点については、世の中の上司に聞かせてやりたい人は山ほどいるのではないでしょうか。

私もついつい小言を言いたくなってしまうタイプなので、この辺りについては肝に命じておこうと思います。

 

まとめ

総ページ数266頁ということで、なかなか読む気にならなかった本書ですが、小説形式ということもあり、読み始めるとサクッと3時間ほどで読み終えてしまいました。

今回の書評では、小説のストーリーについてほとんど触れていないのですが、後半になると意外というかベタというか突然のストーリー展開に話に引き込まれてしまいました。

ベタな展開なはずなのに、思わず涙腺が緩くなってしまい、完全に歳をとってしまったと自覚してしまいました。

というわけで、ドラッカー本としても読みやすく、非常に秀逸な一冊だと思います。

それではまた、see you!

 

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